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チベット亡命政府情報国際関係省1992年発行「チベット環境と開発をめぐって」より ■ 自然と共生してきたチベット人
チベット人は伝統的に自然を崇まい、関心を抱き続けてきた。チベットに多様な動物と、高原植物が残っていたのはそのためである。この伝統は、宗教的な信念に基づいている。これは、国の政策にも現れている。1944年、チベットの摂政は、伝統的な法令を更新している。 村の長、チベット全域の官吏、為政者は、ハイエナと狼を除くすべての動物の殺生を阻止するように命じる。水に棲む魚類、かわうそ、丘や森の動物、空の鳥たち、生命を与えられたすべての動物たち、大きいものも小さなものも、保護され守られなくてはならない。 如何なる者も、己戌(1896年)に公布された、狩猟5原則と環境保全の法律に従わなければならない。 チベット人は、常に自然と共に生き、自然から学び、理解しようとしてきた。チベット人は常に、この世界の相互依存性を理解してきた。チベットの多様な動植物、原始林、そして何よりもチベットを源にする多くの大河が、チベットの何倍も大きな地域の安全と生命の源であることを知っていた。自然との共生には、2、3世紀にチベットにもたらされた仏教も重要な役割を果たした。そのため、効果的に自然界の均衡を持続させる原則が、チベット人の日常生活に組み込まれている。 1642年、ダライ・ラマ5世がチベットの精神的かつ政治的な指導者となった。この日から、毎年10月に、ダライ・ラマの名のもとに「動物と環境保護の法令」が発布された。ダライ・ラマ13世の発布した法令には、次のようにうたわれている。 元旦から、7月30日まで、如何なる者も虎、豹、熊、ハイエナ、鼠、rishu を除いては、様々な空の鳥、丘や森の動物、水に棲む魚やカワウソを、殺すことはもとより傷つけてもいけない。 要するに、貴賎を問わず、誰も、陸の、水の、空の、大小に関わりなく如何なる動物にも、危害を加え傷つけてはならない。 こうしたやり方がうまく機能している証拠を、チベットを訪問した多くの西洋の旅行者の記録に見いだすことができる。例えば、英国の探検家キングダム・ワルドは、第1次世界大戦の前に次のように記している。 私はこれまで、一つの場所で、これほど多くの種類の鳥たちを見たことがない。まるで大きな動物園のようだ。 1940年代には、レナード・クラークは、次のように報告している。 2、3分せぬうちに、次々と我々は、熊、狩猟狼、じゃこう鹿、キャン(野生ロバ)、ガゼル、大角羊、狐を認めたものだ。ここは損なわれていない最後の大きな狩猟の楽園であるに違いない。 1940年代に、ラサにすごしたヒュー・リチャードソンは記している。 憎しみ、羨み、悪意、無慈悲...といったものの形跡を、これほどまでに見られない所はなかった。人々の大多数は、自然に対抗するのではなく、できる限り自然と共に生きようと努力していた(Richardson 1984) チベット人の生き方は、いかなる有情の殺生をも制限している。子供たちは生まれたときから、すべての生命は貴いと教えられる。古典となった「チベットの7年」の中で、ハインリッヒ・ハラーは、今日まで首都ラサを洪水から守ってきた、堤防作りに働くチベット人たちにいらいらを募らせている。 何度も作業が中断した。誰かが、鍬に1匹の虫を見つけるたびに悲鳴をあげるのだ。そのたびに仕事を中断し、虫を安全な場所に逃がすのだ。(Harrer 1984) |
■ 中国によるチベット植民地化が招いたもの
中国の政策は、チベット人を経済的貧困に追いやった。1990年度のチベットの平均年収は1人当たり80ドル(8000円)、成人の識字率は21.7%、平均寿命は40歳である。国連開発計画(UNDP)発表の人間開発指数(生活の質や発展度合いを示す指標、先進国は0.9台)は0.087である。チベットが独立国なら、これはチャドとジプチの間、160カ国中153位にあたる。 現在チベットに住む中国人は760万人で、これはチベットに住むチベット人の610万人を越えている。この大量の中国人の流入は、チベットの環境に、支えきれないほどの圧力を加えている。 中国は自分たちが生活する地域でさえ、凄まじい環境破壊をやってのけた。そんな彼らに、チベットの環境に対して何らかの配慮を行うような考えなどあるはずがない。 |
■ 生物種の多様性
チベットには、人間の干渉を全くといっていいほど受けていない広大な荒野がある。その面積は、合わせると100万平方kmを超える(日本の面積の約3倍)。これらの地域は自然の宝庫であり、独特で多様な生物が生息している。 チベットでは、1万種の高原植物、118種の哺乳類、505種の鳥類、49種の爬虫類、44種の両棲類、61種の魚類が確認されている。これらの植物の4分の1はチベット固有のものである。植物のうち、1300は樹木あるいは低木種であり、チベット、中国、インドの伝統医学で用いられる薬草が約1000種もある。野生動物もチベット固有種の率が高く、野生のヤクのトロン、野生のロバのキャン、チベット・ガゼル、チベット・アンテロープ、獅子鼻猿、ムーリ・ナキウサギ、チベット茶色熊などは、チベットでしか見られない。 チョモランマ周辺に自然保護区を設定するために調査が行われたが、主ヒマラヤ峰の北の27000平方kmという限られた領域だけでも、53種の哺乳類、205種の鳥類、6種の爬虫類、8種の両棲類、5種の魚類という驚くべき多様な種が発見されている。チベットにおける保護地域の面積は、チベットの全面積の1.6%である。これは中国における保護区の割合(0.8%)の倍であるが、インド(4.4%)やアメリカ合衆国(8.6%)より少ない。 1991年に、大きな保護区が設立された。おそらく世界最大、23万7千平方km(ほぼ本州の面積)のチャンタン保護区である。これは野生生物保存インターナショナルが協力している。保護区は標高4700〜5000mに位置し、チベット高原固有の、アンテロープ、ガゼル、野生ロバ、大角羊、茶色熊など多様な哺乳類の保護を意図している。また、ナム湖の周辺の1万平方km(ほぼ岐阜県の面積)を、米国の私的機関ドメスティック・テクノロジー・インターナショナルの協力のもと、鳥類の聖域(サンクチュアリ)とする計画もある。 中国が宣言した保護施設は、1991年末までに31万平方km(ほぼ九州四国を除いた日本の面積)、チベットのほぼ12%を覆うと言われている。しかし中国は、極限られた情報しか示しておらず、保護の効果はわからない。 中国官憲や軍が、無制限に野生動物の狩猟を行っているという報告が入り続けている。外国の富裕層のためのグロテスクな狩猟ツアーが組織され、絶滅危惧種が戦利品として殺され、持ち去られている。また、保護地域が拡大された結果、チベット人は生活の基盤となっていた地域への接近を制限され、生存に対する新たな脅威となっている。保護というのは口先だけで、多くの重要な自然環境とその住人は、保護を受けていないのである。 |
■ チベットにおける絶滅危惧種 国際自然保護連合(IUCN)は定期的に絶滅危惧種のレッドリストを発行し、絶滅、絶滅危惧、脆弱(vulnerable)、希少のカテゴリーに分類している。1990年度のICUNレッドリストには、チベットに棲む30の絶滅危惧種の動物、鳥類の名があげられている。 野生のヤクや雪豹のようなヒマラヤ動物相は、中国本土にはまったく見られない。ジャイアント・パンダなどは、かっては中国全土に見られたが、広範な森林破壊により、主にチベットの山中でしか見られないようになってしまった。以下にあげるリストは、ICUNが認定した絶滅の恐れのある哺乳類と鳥類のリストであるが、決してすべてが網羅されているわけではない。 チベットの絶滅危惧種
(IUCN 1990; WRI 1990) チベットの絶滅危惧種。中国がチベットに侵入してさえいなければ…
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■ 森林
チベットの森林で、最も一般的なのは、熱帯山岳及び亜熱帯山岳針葉樹林であり、エゾマツ、モミ、マツ、カラマツ、イトスギ、カバ、オークなどがある。樹齢200年以上のものが大半を占める。ウー・ツァン(チベット自治区)の古い森林の密度は、針葉樹としては世界で最も高い。 しかし、チベットの奥地に新しい道路ができ、森林破壊が進んでいる。道路が太古から続く森林に達すると、その周辺がすべて伐採されてしまう。こうして、カム(チベット自治区東部・青海省東南部・四川省西部・雲南省北西部に分割)及びウー・ツァン東部の広大な丘斜面は丸裸にされた。 1949年には、チベットの原生林の面積は22万1800平方km(ほぼ日本の本州の面積)に及んでいた。1985年には、これが13万4000平方kmまで減少した(減少した面積は、東北地方+栃木県)。 1985年までの木材搬出は、24億4200万立方mに及び、これは1949年時点での森林の40%、金額にすると540億ドル(5.4兆円)に達する。 森林伐採はウー・ツァンのコンポ地方だけでも2万人以上の中国人兵士、チベット人の囚人が樹の伐採、運搬に関わっている。 植林が困難な環境であり、伐採し尽くしてしまうと、もう元には戻らない。 |
■ 草原
チベットの70%は草原である。この草原は、この国の農業にとって重要な動物たちの命を支えている。チベットの遊牧民は、何千年もの間、この草原に適合して暮らしていた。 しかし、近年、中国軍が軍事目的で広大な土地を囲い込み、また中国人の入植者、農民が流入し続けている。こうした中国の干渉により、遊牧民はどんどん狭い地域に追い込まれ、牧草地は取り返しのつかないダメージを受けている。 |
■ 穀倉地帯
チベットの穀倉地は、2%の面積に過ぎないが、極めて生産的かつ重要な資源である。主要な穀物は大麦で、他の穀物、豆類とともに栽培される。伝統的な農業スタイルは、有機栽培に基づくものであり、山の環境に適した持続可能なものであった。 1959年以降、チベットの耕地に中国人が侵入し、農地を傾斜のきつい周辺領域にまで拡張した。小麦の作付面積が増大し、混合種と化学肥料が導入された。混合種は水不足に悩まされ、病気にかかり、厳しいチベットの条件で衰弱した。定期的に新しい小麦の種が病害を受け、1979年には小麦の収穫が壊滅的影響を受けた。 チベット農民たちは、無理やり買わされる新しい化学肥料が、収穫を増やすどころか、種子、大地、水を破壊し、土地に棲む動物を殺すものであるとして抵抗している。農民たちは、危険で毒性の高い物質を肥料として使えるか試すモルモットにされている、と信じている。 |
■ 鉱物資源と鉱業 チベットには、126種の鉱物資源が存在することが確認されている。リチウム、クロム鉄鉱、銅、鉄の埋蔵量は特に多い。アムドの油田は、年間100万トン以上の原油を産出する。 中国が作った道路網、通信網は、中国が利用する森林と鉱物資源の位置を反映している。 1980年代に、中国本土では主要な非鉄鋼物はほとんど掘り尽くされたため、チベットの鉱物の採掘量は急激に増加している。中国には環境を保護する考えがないので、斜面の不安定化、土地の侵食、健康被害を招いている。 |
■ 水源と水力
チベットにはアジアの主要河川(黄河、揚子江、プラマプトラ川、インダス川)の水源がある。これらの河川は、世界人口の実に47%を養っている。またチベットには、200を超える自然湖がある。神聖な湖、人々にとって特別な意味をもつ湖沼がある。 だが、チベットにおける広い領域での森林伐採、地肌の露出は、沈泥の流出を悪化させており、これらの河川で氾濫が頻発している。 急な傾斜と豊富な水量のおかげで、チベットには25万メガワットの水力エネルギーが潜在する。これは、世界のどの国よりも多い量である。「チベット自治区」だけでも、20万メガワットの水力エネルギーが眠っている。 チベットの豊富な潜在エネルギーは、それぞれが小さな、そして環境に無害なものである。だが中国は龍羊峡のような巨大ダムを造り上げ、ヤムドク湖の水力発電所などを建設している。 こうしたプロジェクトで、チベットの水力エネルギーを開発し、中国やチベットの住民、産業に電力を供給するのだという。しかし、これらのプロジェクトで犠牲を強いられるのはチベット人ばかりである。これらのダムの建設でチベット人が追い出される一方で、何万という中国人労働者が中国から送り込まれる。 これらのダムは、チベットの環境や文化を破壊することはあっても、発言権のないチベット人を益することはほとんどない。 |
■ 大気の影響 チベットの広大な高地は、アジア全域の大気と気象条件に重要な影響を与えている。チベット高原の夏の気候は、南アジア・モンスーンに影響し、チベット高地の植物は、雪解けの速度、チベット高地の温度上昇、さらには対流圏上層のジェット気流にも影響を与える。 チベット高原の環境破壊は、夏のモンスーンの安定したパターンを乱す可能性がある。チベット上空のジェット気流は、北アメリカ全域の異常気象、大西洋の嵐、さらに太平洋の台風とラテン・アメリカ沿岸のエルニーニョ現象にも関係している。 |
■ ダライ・ラマ法王の提案
1989年12月11日のオスロでのノーベル平和賞の講演で、ダライ・ラマ14世は次のように述べている。 チベット高原全体が、人間と自然が調和のある均衡を保って平和に生きることのできる自由な安全地帯となることが、私の夢です。 そこは、世界中で見られる緊張と重圧とは無縁であり、世界中の人々が、内なる平和の真の意味を求めてやって来ることができます。 そうなれば、チベットは、真の意味で平和を増進するための、創造的中心となることでしょう。 参考サイト 環境問題 ダライ・ラマ法王日本代表部事務所サイト内ページ。このページはそれを編集したもの。 チベットの核汚染 最大の環境破壊、核汚染。中国は北京から遠く離れた東トルキスタンで核実験を行い、同じく遠く離れたチベットに核廃棄物を捨てている。今も多くの人が放射能障害で苦しみ、奇形児が生まれ、亡くなっている。 核爆発で他国に流れる川の流れを変え、中国の砂漠を緑地化する計画 新華社通信は、中国はここ数年内に核爆発で崑崙山脈に穴をあけ、 ブラマプトラ川の流れの向きをロプ・ノール湖(核実験場)へ変える計画があると報道。この工事で不毛な砂漠地帯が緑地化され、人間が居住できる環境作りができる、としている。その面積は、北朝鮮の面積に相当するという。 |
2008.05.04
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